その日、私と彼は大好きなハイロウズのライブのチケットを手に入れるため必死だった。
「だめだ、全然つながらない。」「こっちもダメ・・・。」電話予約は殺到していてつながる様子もなく、時間だけが過ぎてゆく・・・。「受付は終了しました。」今年最後の東京公演に行く事はできなくなった。しかし、二人はあきらめきれない。「沖縄まで、行っちゃうか・・・。」
ハイロウズのツアーの最終公演は12月24日の沖縄だ。「行っちゃおうよ!」
というわけで、私たちの沖縄旅行は決定した。
12月23日、まだ真っ暗な午前4時前に起きて、私と彼は羽田空港に向かった。
私は、生まれて初めて乗る飛行機にドキドキだった。飛行機に乗った事がないので、当然空港だって初めてだ。空港は広かった。天井が高かった。
時間がきて飛行機に乗り込んだ。(うわ〜、せまい!こんなんで大丈夫かよ・・・。)不安でいっぱいになる。この日の飛行機は一番小型の飛行機だった。あまりの緊張で、手足が冷たくなる。
やがて飛行機が動き出した。ゆっくり、ゆっくり・・・。「まもなく離陸します。」
急にもの凄い加速が始まった。(・・・・!)シャトルループみたいだ!
飛んだ!今、私は空を飛んでいる!どんどん地上は離れてゆく。雲を突き抜けて上昇してゆく。あっという間に雲の上だ。私は、目の前に繰り広げられる、今まで見た事もない世界に圧倒されて、言葉も出ない。顔を出したばかりの太陽の光が眩しい。私の下に一面に広がる雲は、カリフラワーのようだ。(すばらしい・・・!)感動のあまり、涙が溢れてきた。(飛行機って、すごい!)
涙を拭かなくては!と我に返り、周りを見渡すとみんな平気で寝ている!感動して泣いている者など、一人もいない。(この人たちは電車に乗るのと同じ感覚なのかな。)私には不思議だった。でも、そんな中一人で泣いている自分も、ちょっとおかしく思えた。
二時間半ぐらいで、飛行機は那覇空港に着陸した。飛行機から降りると生暖かい空気に包まれる。(沖縄だ!)服を着込んでいたので、すぐに暑くなってトイレで着替えた。レンタカー会社まではバスで移動して、三日間お世話になる車に乗り込んだ。(さぁ、沖縄探索だ!)
まずは、玉泉洞王国村へ向かった。道路にはヤシの木が並んでいて、南国の雰囲気が漂っていた。冬なのに植物は青々としているし、育ちがいいのか、どの植物も大きい気がした。サトウキビ畑があちこちにあった。おなかがすいたので、途中のお店に寄ることにした。いこい、というお店でソーキそばを食べた。700円でかなりの量だった。味は薄め。麺は、うどんとラーメンの間のような感じ。骨付きの豚肉が4個ぐらいゴロゴロと入っていた。店内には琉球音楽が流れていて妙に落ち着いた。おそばはおいしかったけど、量が多すぎて食べきれなかった。
そして、またサトウキビ畑の中を走って、玉泉洞王国に着いた。玉泉洞は全長890mもある鍾乳洞だ。洞窟好きの私にはたまらない長さだ。普通洞窟の中は、ひんやりとしていて寒い。だから革ジャンを着て中に入ったら、暑い!じめ〜っとして梅雨みたいだった。失敗した!中は広々としていて、鍾乳洞はすごかった!上からも下からも、石のつららが伸びている。湿った表面に照明が反射して、金色に輝いている。足元には澄んだ水が流れていて、途中でそれが滝になって泉に流れ込んでいた。なんとも幻想的な世界だった。今まで見た洞窟のなかで、一番すばらしかった。
長い洞窟を抜けて、沖縄一長いというエスカレーターで地上に出ると、果樹園があった。バナナとかパパイヤとか南国のフルーツが生っていて、それを食べられる所があった。名前は聞いた事がある、というようなフルーツがいっぱいあって、それらの盛り合わせがあったので食べてみた。スターフルーツ、ドラゴンフルーツ、マンゴー。どれもこれもあんまりおいしくなかった。ガッカリ。リンゴはバサバサだし、みかんはすっぱい!だまされた!
そこを出てハブ園に行った。入り口で巨大なニシキヘビがいて、それに触った。冷たくてツルツルしていた。おとなしくてわりとカワイイ。ハブとマングースのショーがあるというので見たけど、今年から決闘は禁止になってしまったので、ショーとしてはおもしろくはない。でもハブが一瞬で風船を割るのはすごかった。あんな勢いで跳びかかられたら、逃げるヒマはない。沖縄では今でもハブによる死者が出るというから、やっぱりハブはコワイ。
それから、おみやげやを見た。ハブ酒の試飲があったので飲んでみたら、結構おいしかったので買った。いろいろ買って福引きまで引いて、シーサーのキーホルダーをもらった。
駐車場に行く途中に、パパイヤが生っている木があったので、一個もいで帰ってきた。
そして明日のライブに備えて、会場の場所や駐車場の確認をして、ホテルへ向かった。
ホテルへは沖縄自動車道を通って行ったのだが、高速道路だというのにみんな速度が遅い!(沖縄の人はのんびりしてるなぁ。)それと、時間はもう6時を過ぎているというのに空が明るかったことにもおどろいた。
ホテルは、恩納村(おんなそん)にある、サンセットヒルというホテルで、部屋はやたらと広かった。
バルコニーも付いていて、そこからは海が見える。もっと暑い時期だったら最高だろう。
一息ついて夕食を食べに出かけた。ステーキを食べようと思って、ちょっとオシャレな店に入ったら、クリスマス時期ということもあって、予約でいっぱいだった。40分待ちと言われたのであっさりあきらめた。結局その店の近くの、恩納そばという店で、またソーキそばを食べた。この店はとてもおいしかった。量もちょうどよく、だしの味もしっかりしていた。彼が頼んだソーメンチャンプルもすごくおいしかった。この店にも琉球音楽が流れていて落ち着いた。
夕食をすませホテルに戻り、一日目は終わった。
12月24日 二日目
7時頃起きて、外をみるとまだ薄暗い。日の出も日の入りも遅いようだ。朝食はバイキング。私たちが一番のりのようで、その後も誰もこなかった。二人とも朝からよく食べる方なので、何度も往復していっぱい食べた。沖縄でよく見かけるシークヮーサーのジュースもあったので飲んでみると、ゆずっぽい味の果汁に砂糖を加えただけのような、シンプルな味のジュースだった。
(沖縄の自動販売機では、必ずこのシークヮーサーのジュースと、さんぴん茶というジャスミン茶の味がするお茶が置いてあった。)
二日目は、まず近くの琉球村に行った。朝は結構肌寒い。琉球村では、ここでしか使えない小判を入り口で買った。1枚100円で、1000円だと11枚ついてくる。11枚の方を買って中に入る。園内には昔の民家がいくつもあって、その中で、藍染めをしていたり、お茶屋さんをしていたり、シーサーなどの置物を売っていたりしていた。
ここにもハブセンターがあって、ハブとマングースのショーをやっていた。私たちはどう道順を間違えたのか、本来ならお金を払って見るショーを、タダで見てしまった。そして精力剤のようなハブの粉も一さじもらって飲んできた。キナコのような味だった。ショーは大したことなかったけど、しゃべりはまあおもしろかった。
ハブセンターを出ると水車があった。その水車はものすごい勢いで、水をバシャバシャはね飛ばしながら回っていた。なぜそんなしゃかりきに回っているのか・・・。意味はわからないが、それがおかしくてしばらく笑った。それは何のアトラクションでもないのに、私には琉球村一番のヒットだった。
それから、いろんな店が並んでいる所を見た。そこでは昨日勝手にもいできたパパイヤが700円で売られていた。(高いじゃん!)ゴーヤ茶の試飲ができる所があったので飲んでみた。後味がにがい。ゴーヤの漬物みたいなものもあったので食べてみた。思ったほどにがくはなかったけど、生のゴーヤはもっともっとにがいらしい。そこのおばさんは、いろいろ説明してくれたけど、私は何も買わなかった。「気にくわなかったー?」と言われた。
小判では、シーサーを買った。シーサーも安い物は500円位から、高い物は30万円位するものまであった。
琉球村の次はビオスの丘に行った。そこはジャングルみたいに亜熱帯植物が生茂っていて、その中の池を船で周った。季節がらあまり見所がないのか、ガイドのお兄さんの説明が苦しまぎれだった。
それから、海に近い国道58号を通って那覇市に向かった。12時位になると夏のように暑くなってきた。Tシャツでちょうどいいくらいだ。中央分離帯にはヤシの木が並んでいるし、本当に南国っぽい雰囲気だ。
思ったよりだいぶ早く着いたので首里城に行くことにした。そこには、門がいくつもあった。そして赤いお城があった。はっきり言って私は、お城などにはあまり興味がない。だから、首里城の感想はこれぐらいしかない。でも一緒にいた彼はいちいち門で写真を撮りたがっていたし(撮らなかったけど)「すごいすごい」言っていたので、好きな人には、やっぱりすごいものなのだろう。
昼食はジャッキーステーキハウスに行った。ガイドブックに載っていたので行ってみたが、外見はボロいし中も大衆食堂のようだった。肉はおいしかったけど、味付けが薄かった。沖縄の食べ物は全体的に薄味の気がする。そしてどのお店にも、テーブルにあまり調味料が置かれていない。
さあ、いよいよこの沖縄旅行の一大イベント、ハイロウズのライブ会場に向かおう。
会場に着くと、もうすでに整理券を配り始めていた。しかも、朝11時から。(しまった!乗り遅れた。)番号は322番。(なんだよ〜、遅いよー!)でもライブはスタンディングなので、がんばって前にいくしかない!整理券番号順に外で並んで待っていると、会場の中から、ハイロウズの曲とヒロトの歌声がおもいっきり聞こえてくる!テンションが上がる。
二時間位待って、やっと会場の中に入る。荷物をロッカーに詰め込んで、急いで場所を確保する。以外とすごい近い。始まるまでドキドキだ。
ハイロウズが出てきた!!!
もうここからは、みんな気ちがいだ。私たちはがんばって前から3番目位まできた。ヒロトがもう目の前にいる!(かっこいい〜!!!)でもそれだけ近いとリスクも大きい。
周りからギュウギュウに押され、上から人も落ちてくる。すごい熱気で換気も追いつかない。私は途中で、急に目の前が暗くなって、倒れそうになった。(死ぬ・・・。) 酸欠だ。
くやしいけど、倒れたらつまらないので、いったん抜けることにした。薄れる意識の中彼に抱えられ出口の方まで行く。(なべさん、ごめんよ!)私のせいで彼までハイロウズから離れてしまう・・・。係の人がジュースをくれた。それを飲んで外の空気にあたったら、私はたちまち回復した。「もう大丈夫。行こう!」再びライブに戻った。後ろの方から見ても会場が狭いから、充分見える。もみくちゃにされない分、思いっきり踊れる。思う存分ハイロウズを楽しんだ。
今年最後のハイロウズのライブが終わった。ファンが帰り始める。と同時に彼が這いつくばって何か探している。あちこち探し回って、「やった!見ろよ!ヒロトとマーシーの投げたピックだよ!」(でかした!!すごいよ、なべさん!)信じられない!なんでみんな自分のところに飛んできたピックを拾わないのだろう?不思議だ。ラッキーとしか言いようがない。しかしそれを見逃さなかった彼はすごい!彼は私にヒロトのピックをくれた!何を隠そうこのピック。さっきまでヒロトが口の中に入れていたものだ!私は考えた。(どうしようこれ・・・。口ん中入れちゃおっかな・・・。)でも一度床に落ちているので、みんなに踏みつぶされているかもしれない。考えた末、私はそのピックにキスをした。(わーい!ヒロトと間接キスしたー!!!)それはもう、私にとって最高のクリスマスプレゼントだ!!!
「ありがとうなべさん!ありがとうハイロウズ!!」
汗びっしょりだ。水をかぶったようだ。着替えてから車に乗った。クリスマスなので、ケーキとお酒とチキン(鶏のからあげ)を買って、ホテルに戻った。
もう二人ともクタクタだった。でも一応カンパイしてケーキを食べた。もいできたパパイヤも食べてみたら、結構甘くておいしかった。
12月25日 三日目
少しゆっくり起きて、朝食をとる。たくさん食べて部屋に戻り、荷物をまとめてホテルを出た。
ホテルからすぐそばの仲泊遺跡に行ってみた。ガイドブックにもあまり大きくは取り上げられていなかったので見つけにくかった。遺跡といってもただの空き地みたいな場所で、小さい山を登っていく途中に、昔、家だった洞穴や、お墓などがあった。人もいないし、なんとなく気味が悪かったので、すぐ引き返してきた。
それから、58号を北上して名護市のフルーツランドに行った。この辺には、パイナップルパークやら、ネオパークやら、植物園など、似たような所がいっぱいあった。
フルーツランドには蝶がウジャウジャ飛んでいる所や、パイナップル畑などがあった。
そして、パイナップル食べ放題だったので(いっぱい食べてやる!)と意気込んで食べてみたら、すっぱい!沖縄に来てからというもの甘い果物に出会ったことがない。勝手にもいできたパパイヤが一番甘かったかもしれない。初めに出てきた一皿を食べるのがやっとだった。それの他に、入り口でフルーツ盛り合わせの券を買ったので、そっちも食べてみたら、やっぱりどれもこれもすっぱい!すっぱくて舌がおかしくなったので、おみやげやの試食で黒糖など甘いものを急いで食べた。
フルーツパークを出て、高速の一番北の許田から那覇まで、端から端を走った。
那覇市に着いて、旧海軍指令部壕へ行った。ここは重苦しい空気が漂っていた。地下壕は迷路のようで薄暗い。とても一人では歩きたくない所だ。兵士たちが自決した時の銃弾の跡が生々しい。私は怖くて直視できなかった。霊感なんて全くない私でも、居心地が悪かったので、今でも兵士たちの無念な思いは消えることなく、ここにとどまっているのだろう。
しかし罰当たりなことに、ここでも何故か私たちはお金を払うことなく、出口にたどり着いてしまった。
昼食は那覇空港に近い、那覇そばという店で最後のソーキそばを食べた。ここは700円で、ソーキそばと炊き込みごはん(沖縄でジューシーという)と山菜まで付いていて、かなり量が多い。肉は骨まで軟らかくてゼラチンのようだ。私はあまり好みではない。
ソーキそばは、一日目の恩納そばで食べたものが一番おいしかった。
レンタカーを5時までに返さなければいけないので、返しに行った。三日間事故もなく、無事返す事ができて良かった。そこからまたバスで空港まで移動した。(もう終わりか・・・。)
道路のヤシの木に別れを告げる。(バイバイ、沖縄、また来るよ!)
空港に着き、時間がきたので飛行機に乗り込む。帰りの飛行機は大きかった。
風が強かったためグラグラ揺られながら、沖縄での三日間を思い返す。
この三日間は本当に楽しかった!初めての飛行機に始まって、沖縄の南国の植物や気候や、琉球音楽など、すべてが新鮮ですばらしかった!一回の旅行で、これだけたくさんの事に感動できることはめったにない。私の心をいっぱい動かしてくれた沖縄に感謝!
ありがとう!沖縄、また絶対行くからよろしくね!
2000年12月
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