〜ピサ市観光〜




何かのはずみでポッキリ倒れちゃったりしないもんなのかね、あの『ピサの斜塔
』は。
東京の、まっすぐに建っているビルを見慣れている私の目には、
あの『ピサの斜塔』の傾きは、やはり異様に写る。
よく倒れないもんだなと感心してしまう。
(と言いつつも、イタリアに来る前はもうちょっと傾いていると思っていた。)

1996年頃、ピサ市に比較的大きな地震が発生し、その時に崩れかけてしまっ
た箇所を
未だ修理しているとかで、私が訪れた時『ピサの斜塔』の周りには、
工事の柵が張りめぐらされていた。(ここもか・・・)

それでも年々傾き続けて来ていて、近い将来には修復も不可能なほどに崩れ去っ
てしまうだろうと
言われているらしい。

その日は前日からの豪雨が午前中まで続き、『ピサの斜塔』も雨の中の観光にな
るだろうと覚悟していたのだが、
バスがピサ市内に入ると嘘のように雨が止み、黒い雲の隙間から、わずかながら
太陽の光が差し込んだ。
黒雲のせいで下界は薄暗く、差し込む太陽の光の線は、ちょうど建物を照らして
いる。
その景色は、さながら演劇の舞台セットとピンスポットのように見えた。

『ピサの斜塔』が建っている周辺は、建物も距離をおいてポツンポツンと建って
いるので、
広々として気持ちがよく、地面には芝生が敷かれていた。
空の黒と、建物の茶ばんだ白と、芝生の緑と、景色の色は大きく分けてその3色
だった。

芝生に座ったり寝転んだりしながら、大胆にもキスをしまくっているイタリア人
カップルがたくさんいた。
平和な光景だ。何だかこちらまでホノボノとしてしまう。
例えばもしそれが日本人のバカップルだったら、「ホテルにでも行けよ」と不快
な気持ちになるのに、
カップルが外人だと、許せてしまうのは何故だろう・・・。
(雨が降った後の芝生に、よく寝転べるなぁとちょっと思ったりもしたが)

ところで話は変わり・・『ピサの斜塔』を訪れる観光客の99%は絶対これをや
るだろう。
それは、遠近感(?)を利用して『ピサの斜塔』を手で支えてるかに見える写真
の撮り方だ。
例に漏れず私もやってみたくなったのだが、友人は顔をしかめて「え〜いいよ、
面倒くさい」と消極的な姿勢だ。
「やろう!じゃないとここに来た意味が無い!!」
と、私は大げさな事を言い、嫌がる友人にあれこれと立ち位置を指図した。

「手はもう少し上!そんでそのまま右へずれて。あ〜行き過ぎ!もう少し左、あ
〜・・あと半歩 右!
撮るよぉ!・・・あぁ、ずれちゃったよ・・・。動かないで・・・!」

今思うと、友人もこんな私の指図をよく我慢して聞いていたものだ。
でも、嫌がっていた割に彼女はちゃっかり笑顔で写真に納まっていた。

一方、私のほうの写真は最悪だった。
そういえば、面倒くさがりな友人は、私にあまり立ち位置の指示をしなかったっ
け・・・。

私):「どう?こんなもん?手はちゃんと斜塔を支えてるぅ?」
友):「うんうん、バッチリ支えてるよ、撮るよ。」(パシャッ!)

後日、出来上がった写真を見てガッカリした。
中腰で、重そうな顔演技までして気合タップリなのに、手は斜塔に思いっきり被
ってしまっていた。

「やっぱりインスタントカメラは駄目だね」と友人はヘラリとした顔でカメラの
せいにしていた。

ちょっと待て!同じカメラで撮っているんだぞ。あなたのはちゃんと支えている
じゃないか。
これは、やる気の問題であってカメラは関係ないぞぉ〜!!!

まぁ〜ね〜・・・。確かに『ピサの斜塔』は、薄くてボンヤリした写りになって
しまって、
それはバカチョンカメラのせいだと思うけどさぁ・・・、
手が斜塔に被ってしまったのもカメラのせいにする友人の度胸ある責任逃れに半
ば呆れつつ、
とりあえず“写真撮った”という自己満足で我慢するか。いや、満足してないが
・・・・・。