〜 フリータイム・ローマの休日 前編 〜



今日はローマで終日フリータイムだ〜!バンザ〜イ!
ツアーの慌しい予定に、かなりウンザリしていた私はとっても嬉しかった。
今日だけは時間や人にとらわれず、見たいものを見、買いたいものを買い、
行きたい時にトイレに行き(探すのが大変だけど)、好きな場所で食事を摂るこ
とが出来る。

この旅で知ったのだが、自分は、どうもツアー団体と言うものがあまり好きでは
ないようだ。
旗を持った人を筆頭に、あのゾロゾロした歩きもカッチョ悪いし、急かされ急が
されの雰囲気も嫌いだ。ツアー仲間に気を使うのも疲れるし、時に生理的現象も
我慢せざるをえない。

常に日本人に囲まれて歩いてる訳だから、異国にいる実感が全然湧かないし、
それに、現地の人達との交流が全く無い。
何か判らない事があっても添乗員さんに聞けるし、食事も自分達でオーダーする
のではなく、ただ黙って座って待っていれば、予め決められた物が運ばれてくる。
やはり、折角その国に来たのならその国の言葉を話したいものだ。

という訳で私と友人は、移動の際 タクシーに乗るよりも大衆が多く利用する市
バスや地下鉄を使うことにした。
その方が、人や街の雰囲気が肌でも感じ取れると思ったのだ。

もちろん、スリなどの被害には重々注意する。(特に地下鉄はスリの方々にとっ
て一番の稼ぎ場所だ)
ちょっと怖いが、でもこのドキドキ感も旅には欠かせないものの一つだと思う。
(エラソ―!)

私達は前日の夜からガイドブックと首っ引きで、今日の計画を立てていた。

まず午前中はバチカン美術館に行き美術を堪能したら、次はシスティーナ礼拝堂
で祈りを捧げる。(美術に疎く、無宗派な者が何を言う)
そして散々美術館を巡り倒したら、午後はいよいよショッピングタ〜イム!!
正直言うと、ここだけの話、私には午後のショッピングの方がメインエベントだ
ったりする。
だぁってぇ〜〜・・美術館とか教会興味ないんだもぉ〜ん・・ブリブリ
・・と、ブリってみたところでどうせ寒風が吹くだけの年齢の私だが、
友人はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、『まぁ、折角来たんだから見とく
だけ見とこうよね』
と、子供をあやす口調でこう言った。

朝食をとっている時に、ツアー内の女の子2人組の本日のスケジュールも、私達
と大体同じである事を知った。
『じゃぁ、折角だから』と言う事で、お知り合いになれた記念に4人で行動を共
にする事にした。

ここで簡単にこの二人の女の子の紹介をしておこう。
彼女達はSさんとMさんといい、Sさんが歯科衛生士で32歳、Mさんが26歳
のOLさんだった。
Sさんはとてもハキハキキビキビしていて明朗活発な方に対し、
Mさんはノ〜ンビリマイペースで、怒る事を知らなそうな穏やかな方だ。

そんな、仕事も年齢も性格も違う二人がどうして知り合いになったかと言うと、
それは趣味で通ってた
テニススクールでだそうだ。
仲間同士でテニススクールに入会してくる人が多い中で、SさんもMさんもそれ
ぞれ一人で入会してきた。
そうすると同じ境遇なので何となく相手が気になるものだが、最初のうちはすれ
違ってもお互い会釈すらしない状態だったらしいのだが・・・。

そんなある日、Sさんがたまたまスクールの受付で、今月分のお支払いをしてい
るMさんを見かけ、
何気なくその横顔を眺めていると、Mさんの睫毛が異様に長い事に気が付いた。
ゆうに3センチはあろうか・・・、
あまりの長さにSさんは思わず、『睫毛長〜いぃ!』と大きな独り言を叫んでし
まった。
『えっ?!』っと振り返ったMさんとバチッっと視線が合ってしまい、
Sさんはそこで初めて自分の声に気付き、慌てて謝ったそうだが、Mさんは
『あ、よく言われるんですよ〜気にしないで下さい』とニコニコ笑っていた。

それから二人は旅行に行くまでの仲良しさんになったわけだが、仲が親密になる
につれて実はMさんが、
睫毛の長さにものすごいコンプレックスを持っていた事が追々分かってきた。
あの初対面の時、『気にしないで』と言った彼女は内心どんな思いだったかSさ
んは考え、もう、睫毛の話題はしないことに決めた。
だが、Mさんはノンビリ穏やかなのであまりクヨクヨ悩み考えるようなタイプで
はなかった。
音声に例えるなら、ポワワワ〜〜〜ン・・・・ってな感じだ。
だから、コンプレックスももう昔の話だとMさんはコロコロ笑いながらSさんを
安心させたそうである。


さてさて、そんな風にして知り合った2人と本日行動を共にする事になったわけ
だが、ここで最終的に
大まかな一日の予定を、朝食のロールパンをかじりながら4人で話し合った。
そしていざホテルを飛び出し、本日のファーストスポット、バチカン美術館
へと足を踏み出した。

美術館へはメトロを使うことにした。
だが地下鉄の入り口で切符の買い方が分からず随分まごついてしまった。
挙句の果てに4人とも小銭を持っておらず、両替の仕方も分からないので、イタ
リア語ブックを片手に
機械の前でウロウロしていると、一人のイタリア人のお姉さん(神秘的なキャス
リーン・キーナー似)が話し掛けてきた。

キャスリーン『どうしたの?大丈夫?』(イタリア語)

4人娘   『バチカン美術館まで行きたいのですが、
       切符はこの機械で買えば良いのですか?』(英語&ジェスチャー)

キャスリーン『切符はこの機械では買えないのよ、これは定期券を買うための機
械なの。
       切符はあの売店で買うのよ』(イタリア語&ゼスチャー&ちょっと英語)

と、向かいのキオスクのような売店を指差した。
しかも彼女は自分の財布から小銭を取り出し、両替までしてくれたのだ。なんと
優しい方!
グラッツェ!キャスリーン!! “マルコビッチの穴”のジョン・キューザック
の様にウットリと彼女を見送った。

それにしても、片言の英語とジェスチャーで意外と会話が成立するものだ。
もっとも我々の解釈が当たっていればの話だが・・・。

《バチカンは一日がかりで》とは有名な言葉で、とても一時間や二時間では見足
りないのである。
入るだけで並びに並びまくると言う噂を耳にしていたので、心の準備は出来てい
たが、それにしても
長蛇の列だった。美術館の外の道路を渡り、その角を曲がっても尚、列は続いて
いた。
そう、列が美術館を取り囲んでいるような状態だ。
一時間半以上並び、ようやく入り口に辿り着く。
入り口は、団体客用と、個人客用の2つあった。
入るとすぐにかの有名な螺旋階段が聳え立っている。
それを昇りきった所に切符売り場があり、入場料15,000リラだった。
同時にCDウォークマン形の音声ガイド機も8,000リラで貸し出されていて
日本語用のガイド機を借りた。

その機械には@AB・・・・・・と数字の書いたボタンがある。
そして、壁画や彫刻の側に番号の書いた立て札があり、立て札の番号と手元の機
械の同じ番号のボタンを押すと
そこの展示物の説明が、ヘッドホンに流れてくる仕組みになっていた。

しかし、壁画も然る事ながら、ドーム型の天井も実に見事で、
口をあんぐり開けながら左右上下と顔を動かしていた為、首が疲れてしまった。

更に進んで行くと、ミケランジェロが画いた絵のあるシスティーナ礼拝堂に辿り
着く。
ここでは死語(私語≠ニ入力したらこれが真っ先に出てきた・・)も写真も駄
目なのだが、こっそりフラッシュ無しで撮ってる人を何人も見かけた。いーのか?おい!

礼拝堂の天井画は、ミケランジェロがたった一人で1508年から1520年と
約12年もの年月をかけて画いたと言われるものだ。一人でだよ、一人で!!
黄金造りの天井はライトアップされ、更にキラキラ輝いていた。
天井の中央の部分には9つの絵を張り巡らしてあり、それは【アダムとイヴの創
造】【ノアの洪水】等など、
《創世記》の物語の絵だ。
そこに画かれた人々の滑らかな手足の曲線が今にも動き出しそうなほど脈打って
るように見えた。

システィーナ礼拝堂は大変混雑していた。観光客に混じり、シスターも何人か見
かけた。
その中で、一人の小柄なシスターは何故か洋梨をペチャペチャ食べながら、私の
横をトコトコ歩いていた。
手は洋梨の汁でグショグショだった。口からもポタポタと汁を滴らせながら一心
不乱に貪っていた。
その姿がちょっと怖かったので、シスターを横切って少し先を歩いていると、
いきなり背中にベッタ〜〜っと誰かが手を突いてきた。
ガバッと振り返ると、先程の洋梨シスターだった。
すでにシスターは洋梨を食べ終えていたが、手は汁を垂らしながらベタベタして
いた。
私のcKのジージャンの背中は、洋梨の汁がシスターの小さな手のひらの形で染
み付いていた。

たいそうお年を召していそうだったので、歩いていて思わずよろけてしまったの
か、はたまた、手を拭くタオルが欲しかったのか・・・。
いずれにしろ、シスターは私には目もくれず、平然とトコトコ歩いて行った。や
ってくれるじゃん!

しかし、バチカンは広い。丸一日あっても隈なく見るのは無理だと言う事が判っ
た。

美術はあんまり・・・と言っていた私も、その壮大なスケールと躍動感ある絵の
数々を見ていると、
何やら吸い込まれるような、我を忘れるというか、時間が経つのも忘れて見入っ
てしまったのでありました。

それにしても、ずっと顔を天井に向けて歩くというのは予想外に疲れるものだった。
開けっ放しの口もカラカラに渇いていた。