美智子さまを睨みつけた私



 この間久々にある光景に出くわした。私の働いているコーヒーショップは丸の内にあるので、当然のことながら毎日東京駅で降り丸の内へ向かっていく。その中で年に一回くらいではあるが、皇族の車と出くわすことがある。皇居から出るとき向かうときによく通るのだ。ちょうど今回は2年振りくらいに見ることができた。

 皇室関係の車が通るのがいつもすぐわかる。というのは、警備がものものしくなるからだ。その数たるものすごいとしか言い様がない。道を挟んで対になってそれが20メートルおきくらいに立っている。交差点ともなればさらにその倍は立って警備に当たっている。

 通過する時間が近づいてくれば道路は全部止められる。人も車も待機してなければならないのだ。皇族だからその準備はかなり前から始められて、足止めも相当の時間だったりする。それで思い出したのだが2〜3年前くらいだっただろうか、やはり同じような状況に遭遇した。

 私はお昼休みに近くのビルにランチを買いに行くことにした。それは確か7月あたり、昼ともなれば、灼熱の太陽が容赦なく丸の内のアスファルトに照りつける。ちょっと外に出るだけでもすぐ汗が噴き出してしてくる。でもどうしてもその日食べたいものがあったためそのビルに足を運んだのだ。

 お弁当を買って外に出ると何だかちょっと雰囲気が違ってた。どんどん自分のビルのほうに近づくたびに警官の数が増えていった。『もしや!』と思った。そう思ったのも初めてじゃなく何度かこの光景を見ているから皇族か総理大臣でも通るのだとわかったのだ。先を急がねば!と思い小走りで歩いた。こんなところで足止めをくわされたらたまったもんじゃない。私の休憩時間はこの灼熱地獄で過ごすために与えられているわけではない。そう呪文を唱えるように競歩スタイルで歩いていくと・・・

 “ピーーーー!!!” ドキッ・・・・ “すみませ〜ん、とまってくださ〜い!” はぁ〜〜

 あと一本道を渡れば私の働くビルにたどり着けるというときに待ったの声がかかってしまった。仕方なく足を止める。1分経過、2分経過、3分経過・・・私たち歩行人を制止しているくせに一向に現れない。

 私はだんだんイライラが募ってきた。この私をアスファルトの反射熱で地獄の丸の内に立たせ、あと40メートルほどで帰れるというところで待たされる。弁当の袋を抱えてる手も、汗でべっとりと張り付いているシャツにも腹立ってきた。それでも道の真ん中はまだこないマラソンランナーを待っているようにきれ〜いに空いている。

 そして灼熱35℃のなか待つこと8分、ようやく永代通り側から車が入ってきた。白バイが何台も先導して、ひと目でただものじゃなわね!って思った。でも怒りも頂点に達していたため、私の煮えたぎった視線は車一点に注がれた。

 『誰だい、ブサイクなくせにノーメイクの紀宮かい?結婚話もあんまりないと面子が保てないから、話を作り上げたのね。それとも一気に千年前にタイムスリップした顔を見せてくれる皇太子かい?あんたは世界のメディアに露出が多いんだから、その水分量40%の髪と髪型、服をちゃんとしたほうがいいよ!』とありとあらゆることばが心の中で浴びせてた。

 その怒りの中で車を見つめた。一台目、誰も乗ってない。二台目も誰も乗っていないようだ。何だい!いつ通るってーのさ。と思った三台目に誰か乗っている。私はいつもの腕を組み、左足を若干前に出してきよちゃんポーズをとって、熱いあつ〜い視線を車中に注ぎ込んだら、なんと乗っていたのは美智子皇后だったのだ。ゆっくりとゆっくりと通り過ぎる中で偶然美智子さんと目があってしまった。

 私はしまった!と思った。まさか美智子さんが乗ってるとは思わなかったし、でも突然ポーズを変えるのも、人間そうそう反射神経は良くないと思う。だからにらみ続けてしまったのだ。美智子さまはみんなに向かって微笑んで手を振っていたのに、鬼の私の姿を発見したら、申し訳なさそうな顔をして軽く会釈した。私はさすがに申し訳なく思ったが、体を戻すのを忘れてそのまま通り過ぎていく車をにらみながら見送った。

 あんなことをしてかわいそうに思った。美智子さんが悪いわけじゃないのに、多分警察がタイミングを間違えて待たせすぎたのか、美智子様だったからかはわかんないけど、とにかく彼女に罪はない。でもビジネス街のお昼を通るのだけは勘弁と思った。ぜひ皇室専用の道路を作って欲しいと宮内庁に直訴しようかとも考えた。

 そのとき私は周りを見てなかったが、もしかしたら私はその周辺の警備の対象になっていたかもしれない。私は皇族を睨みつけてしまったとんでもない非国民だが・・・でもごめんなさいね、もう2度とあんなことはしないよ。クイーン美智子!