捕物帳物語




ある日、突然私に警察からの出頭要請があった。そして翌日出向かわなければ
ならなかった。
それは今でも忘れはしない8年前の初夏、私は風邪で熱に犯された身体を引き
ずって警察に行った。

それより何年か前の17歳くらいのとき、私はある男性との関係があった。
その頃、巷では伝言ダイヤルが流行っていた。私もその流れに乗ってかけていた
時期があったのだ。そしてそこにはゲイの伝言ダイヤルエリアがあって、いろん
な人とお話したり、会ったりしていた。きれいな話ではないが、会えばやはり
エッチをしてしまう。電話の中ではそういう目的もあるので当然といえば当然だが
中にはとんでもないのもいた。ある男の家に行ったことがあった。その男は・・・
かなりのブサイクだった。会った瞬間びっくりしたのだが、私は平静を装っていた。
髪はひどい寝癖でいつ洗髪なさったの??っていうような感じで顔もかなりの汚さだった。

ブサイク極まりないというのはこういうことなのかとはじめてわかったときでもあった。
その場をどう切り抜けようかと考えた。しばらく世間話をしていた。その彼は
某有名アクションクラブに所属していて仕事で日光江戸村にも行くと言っていた。

私は、「あぁ・・・、あんたでもなれるなら私は大スターね・・・」と思っていた。
そして、2時間くらいが過ぎた頃恐ろしい魔の言葉が聞こえてきた。やつは
「でさ・・・どうする?」来た〜〜〜〜〜〜!一瞬で致死量に相当するくらいの
砒素が注入されたくらい、著しい血圧の低下を感じた。私は聞き返すこともせず、
即答で「なんか具合悪いから帰る」と告げて足早にそこの家のドアを出た。
などなどそんな経験もある。


話は戻すが、ちょうどその頃伝言で冒頭にでてきた男性と会うことになった。
電話では42歳と言っていた。おじさんも嫌いじゃないので会うことを決めた。
教えられたマンションに行くと広いマンションで、聞くとおじさんはレストラン
を経営しており、昼間は事務所としても使ってるとのことだった。私はシャワー
を浴びおじさんはすぐ求めてきた。事がすんだあと、おじさんは本当の年は56歳
だと言ってきた。私は驚いた。どこから見てもそんな年には見えないし、騙された
ということにも驚きがあったのだ。そしておじさんはおもむろに金庫のほうに行って
2万円を私に渡した。私は言った、「そんなつもりで来てるんじゃないんだから
いらないよ、仕事してるんじゃないんだから失礼だよ」と。でもおじさんは
「これは気持ちだから受け取っといてよ。そういうつもりがないって聞いてあげ
たくなったんだ」と言って私のポケットに入れたのでもらってしまった。本当に
何でも成立してしまうんだと思った。この不純さも・・・。

そんな時期も過ぎて、そんなおじさんがいたことも忘れていった。
付き合っている彼ともうまくいっていた。
そんなある日、私にひとつの情報が入ってきた。殺人事件が起こったというのだ。
さらに驚くべきことにその殺されたのはあの日の“おじさん”だった。最初は驚
きで声も出なかったが詳しいことを聞いてみると、おじさんはずっと伝言でその
ような行為をしていたらしい。そして何者かによって殺されたのだ。翌朝出勤し
てきた従業員に発見されたらしい。死体は全裸で首をしめられて殺害されていたらしい。
近くの金庫が開きっぱなしになっていて中の現金もなくなっていたそうだ。

札幌のゲイは一斉に噂をしていた。あのじじいはいつか殺されるんじゃないかと思った
とか、金をばら撒いていたからトラブルが起こったんじゃないかとか、自分のところ
の従業員に手をつけてその従業員に殺されて金を奪われてその従業員も今は行方不明だとか。
]とにかくいろんな噂だけが氾濫していた。そんなとき私の彼が青い顔をして仕事か
ら帰ってきた。私はどうしたの?と聞いたら、今日会社に警察から電話がかかってきて、
会って聞きたいことがあるから仕事中少しだけ時間を空けてほしいとのことだった。

そして彼は仕方なく待ち合わせのところに行ったらワンボックスカーあり、その中で
取調べを受けたのだ。〔なぜ彼や他の人がわかったのかというと、警察はNTTに捜
査への協力を要請して過去にさかのぼって伝言ダイヤルにアクセスした人の記録をコ
ンピューターで調べてその全てを一件一件つぶしているのだそうだ。そのことによっ
て会社を追われた人もいたらしい。〕

事細かなことを聞かれ、最後には毛髪と指紋をとられたそうなのだ。その時、話の中
で付き合っている人はいないのかと聞かれ、私のことを言ってしまったらしいのだ。
その翌日私が警察に行くことも決められたらしい。その日私は風邪を引いて熱を出し
ていた。翌日仕事に行ったものの熱は昨日にも増して高くなっていてすでに38度8
分に達していた。こんなんじゃ行けないと思い、警察に電話して今日はとても行けそ
うにない、別な日じゃだめかと聞いた。しかし、警察はすぐ済むから来てくれという、
仕方なく行った。

行ったらすぐに取調室に通され、2人の刑事が私についた。私はやはりかなり具合が
悪かったので刑事にその旨を伝え、早く開放してくれるように頼んだ。すると刑事は
5分で済むから我慢してくれと私に告げたが、それは1時間半以上にも及んだ。その
中でプライバシーなどとは言っていられないくらいの質問を受けた。

それは、ありきたりのいついつどこにいて何をしていたかというのはお決まりだが、
どのようにセックスしたか、気持ちよかったかなどと聞かれた。
さらに私と彼のことについても事細かに質問してくる。つきあい始めて何年?セックス
は週にどのくらいする?エッチは好きか?どうしてゲイになったのか?など、ゲイと
いうより一人の市民としての尊厳を傷つけられるような屈辱だらけの質問だった。

私は意識が遠のきながらも怒りに震え、その刑事になんでそんな質問をするのか、
そんなことに答える義務はない。そして私たちを冒涜するものだと。
しかし刑事はこう言った。「これも捜査の参考だから答えてもらわないと困るんだ」
何が困るのかこれだけは今でもわからない。

しかし、私は早く帰りたいと思いとにかく質問に答えていった。そして何度も途中で
もうこれ以上は無理だと刑事に言った。でも刑事はもう少しもう少しと言って決して
私を返してはくれなかった。最後にはやはり彼も採られたように毛髪と指紋の提供を
求められた。

他の取り調べられたゲイの人に聞いたのだが採取を断ったらずっと返し
てもらえなかったというのだ。そしてその日はなんとか帰っても翌日、そのまた翌日
刑事が仕事場にやってきて提供を求められる。その人は仕事場でも白い目で見られ、
これ以上は困るとのことで仕方なくというより強制的に提供させられた。

私はそれを聞いていたのだが、このような捜査のやり方が許せなくて断っていた。
何度も何度も執拗に求めてくる、私の熱はすでに頂点に達していた。何度もの押し
問答に最後には負けてしまった、これで開放されるならという気持ちもあったのだ。
髪の毛を一本抜き取られ、指紋は左右の手、全指のをとられた。そのとき私は人生
が半ば終わったような気になった。

そして私は帰宅した後40度の熱に4日間うなされた。
私はそのあともずっといやな気分だった。もちろん私たちの世界でも汚い面はある、し
かしこのような事件は起こらないと思っていた。だが起こったのだ。今も犯人は捕ま
っていない、まだどこかにいるのだろう。

今回はこれを書くに当たって別に何が言いたいわけではなかった。でも心の中で
ずっと引っかかってきたのだ。この8年間誰にも言わず封印してきたことを誰かに
言って消化したかったのかもしれない。私が一瞬でも疑われて取調べを受けたって
ことを・・・