カミングアウト〜ゲイ履歴書〜part7-生活&浮気編-



 私たちは共に生活を始めた。彼は昼のサラリーマン、私は夜の仕事を続けながらの
生活だった。でもそれなりにうまくいっていたような気がする。それは、彼が私に合
わせようと努力してくれたお陰だと思う。

 付き合おうと言ってくれたとき同様、夜遅くに帰ってきてもいやな顔ひとつしない
で迎えてくれた。しかし、そんな私でも不満がなかったわけではない。

 昔の彼、とても束縛が激しかったのだ。私は自分の時間がなかったにも等しい。
そのとき私は18歳、どんな子でも遊びたい盛りだ。仕方ないから私が昼過ぎに起
きて、夜出勤するまでの間の数時間に友達と遊んだものだ。それでもやっぱり付き
合いもあるし、夜に行きたいこともある。となると休日の夜しかなかった。

 彼は私が出かけるのをひどく嫌った。それでもなんとか時間をもらって久々に友
人と遊びに行ったのだ。そのときに11時までならいいということで家を出た。で
も久々に会う友達と飲んでるとあっという間に時間は過ぎていった。結局帰るのが
1時間遅くなって12時近くになってしまった。すると彼はとても怒っていた。何
度もそんなことがあって私はとうとうキレた。

 「ちょっと、なんでなの?たまに友達と遊びに行くのがそんなに悪いの?罪なの?
いいじゃん!あんた私のこと何歳だと思ってるの?まだ18なんだよ。あんただって
飲みに行くじゃん!!それで一回かなんか言ったことある??」

 そう、私は逆に束縛が大嫌いだったのだ。だから彼が飲みに行こうが出かけようが
言った事がない。それは同時に自分にも向けられるのはいやだよ、というようなメッ
セージでもあったような気がする。
そんなことを切々と訴えた。しかし、一向に彼は聞く耳を持ってはくれない。私は泣
き叫びながら訴えた。今まで我慢していたものが溢れ出したのだ。

 私はとっさに家を飛び出してしまった。彼はすぐ追いかけてきた。だから靴もはか
ず、エレベーターを待っている時間はないと判断し、非常階段で下に降りていった。
相変わらず彼もすごいスピードで追ってくる。彼は寝るところだった。そう、だから
彼はTシャツとパンツの姿のまま追ってきてるのだ。私は少しもスピードを緩めるこ
となく走りつづけた。そしてマンションの外に出て、道路を全速力で走った。でも彼
は私に追いついたのだ。びっくりした、私は比較的足は速いほうでまさか彼には追い
つかれないだろうとたかをくくっていたその瞬間だったからだ。捕まって「とにかく
戻ろう・・・とにかく・・・」と息を切らせながら言う彼に私はいやだと言いつつも
、とりあえずお互いマヌケだから戻ることにした。その間彼は私の腕を力いっぱいつ
かんでいて帰るまでの間、少しも力を抜かず痛かったのを憶えている。彼の足は真っ
黒になってちょっと傷ついていた。

 帰ってから彼は私をなだめつづけた。大声で泣き叫び、小学校以来こんなに泣いて
いないんじゃないかと思うくらい泣きつづけた。そのときはそれでなんとなく終わっ
たけど、その手のことは幾度となくあった。何度別れようと考えたことか・・・。

 あと、これは私の中だけのエピソードだったのだけど、ちょっと彼に対して不審だ
と思ったことがあった。それはある夜、客の切れたお店でなんとなく体の調子が良く
なかった。そしてなぜだかとても帰りたくなったのだ。普段だったら多少のことでも
そんなことないのに・・・。私はママに今日はもう帰りたいと初めて言った。ママも
そんなこと言い出したことのない私が言ったので、びっくりしたようだけど快く帰し
てくれた。急いでタクシーに乗って家に帰った。

 すると彼はいない。買い物にでも行ってるのだろうかと思ったけど電気を消してこ
の時間の買い物などない。私は瞬間的にどんな考えもなくいやな心が走った。そして
何を思ったか、私は電気を消したままで彼を待つことにした。そして何度となく6階
の部屋の窓から彼が戻ってくるであろう方向を見ていた。どのくらいの時間そうして
いたんだろう。たぶんそれは2時間以上・・・時間も深夜2時を回っていたと思う。
さらにカーテンを開け外を見たその瞬間、彼の姿が見えた。駐車場のある方向から帰
ってきたのだ。私はどのように迎えようか迷ったが、このまま待つことにした。

 鍵を開け、中に入ってきて電気をつけた瞬間彼はびっくりしていた。そりゃそうだ
ろう、座敷わらしでもない限りそんな状態で待ってはいないであろう。私は即座に自
分の帰ってきた状況を話し、そしてすかさず聞いたのだ。

 「どこに行ってたの?」すると彼は私が予想していた答えを口に出した。
 「買い物に行ってたんだ」、「ふーん、何時間買い物に行ってたの?こんな深夜に
・・・」彼は止まっていた。でもちょっとしてから彼自身の口からこう話した。

「実は、エイジ(前に付きあっていた男)から泣きながら電話がかかってきてどうし
ても話したいことがある。いまとても落ちていて助けが必要だって言われた。心配だ
から行って、相談に乗ってあげた。それ以上は何もないよ。ほんとただそれだけ・・
・」
 私はもうひとことくらい聞いたけどそれ以上は何も聞かなかった。ただ、その話を
鵜呑みにはしなかった。なんというか女の感みたいなものが働いたのだ。なんかうま
い話と思ったし、私の考えではエイジにも会ってはいない、そう考えた。でも証拠も
なにもないし待ちくたびれたので何もないように過ごした。

 それからしばらくして、初夏の北海道、彼は道東一週旅行をしようと提案した。そ
う、私たちはなかなかすれ違いでまとまった旅行なんて行くことができなかったのだ
。私も勇気を出して店のママに相談した。するとわりとすんなりOKしてくれたのだ。
楽しんでらっしゃい!と・・・。予定は一週間かけて車で北海道の東部をまわり、温
泉地に泊まりながら旅行する、といった感じだ。

 最初の宿泊地『帯広』、2日目の『釧路』と楽しい旅は過ぎていった。そして3日
目の『知床』に向かっているとき、決定的な出来事が起こった。北海道の道を走った
ことのある人はわかると思うけど、走っているとすぐスピードが出てしまう。気づけ
ば120キロくらいは余裕で出てるものだ。そんな調子でドライブを楽しんでいたら
、覆面パトカーに捕まってしまったのだ。道路の脇に停車させられ後ろから警察官が
降りてこちらに向かってきた。彼は完全に動揺していたみたいだ。今まで捕まったこ
ともないし。そして窓を開けたら警察官が「免許証を持って後ろの車まで来てくださ
い」とのこと。

 そして彼は財布から免許証を取り出し・・・・・、免許証じゃない、私は目を疑っ
た。それは、この世界の人間ががエッチをしに行くある場所のメンバーズカードだっ
た。この時点でいわば“浮気をしています”という言い逃れのできない証明書だ。で
も彼はあまりの同様のためか気づいていない。私は「早く行きなさい!」といって彼
を行かせた。彼は気づかず“そのカード”を握り締めながら覆面パトカーのほうへ向かっ
た。

 私は絶望感でいっぱいになった。胸は言い表し様のない絞めつけ感で頭はからっぽ・
・・。でも私はわずかな望みに賭けることにした。それは、そのカードというのは1
年間の有効期限なのだ。だからその有効期限から1年前にさかのぼればわかるとおも
った。もしかしたら、私と出会う前かもしれない・・・そう思ったから。しばらくし
て彼が戻ってきた。でも一向に同様は隠せない様子で元気もなくなっていた。私は始
まったばかりの旅行を台無しにはしたくなかった。だから彼を励ましつづけた。「だ
いじょうぶよ、こんなことよくあることなんだから。まだ旅行ははじまってばっかり
だし楽しまなきゃね!」彼は私の話しがあまり耳に入っていないようでしばらく暗い
顔をしていた。私は心の中で、

 『なにさ、本当は私のほうが泣きたいよ。そして旅行なんてする気分じゃないよ』

 宿について、すぐ温泉に入った。そのとき彼は服を脱いで先にお風呂に入っていった
。そこで私は悪いことをしてると思いつつも彼の財布を開けてしまった。あのカード
の有効期限を調べるために。そしてカードを見つけ出しすぐさまその部分を見てみた
。さらに崖からひとつきにされた気分だった。わずか2ヶ月前に作られたものだ。私
は涙が溢れてきた。彼は付きあうとき言ったことがある。

 私が「浮気はいいよ、っていうか男だもん、男のサガってことで仕方ないからさ」、
でも彼は「お前以外はいいんだ、そうしようとは思わない」そう言うので、さらに「
本当に無理しないでいいんだよ。わかんないようにやれば。そういうふうに最初に言
ってて、わかるほうがつらいからここではそういうことはっきり表さないで」私はこう
言葉を続けると、「いや、絶対にそんなことしないし、必要ない!」そう言いきった
のだ。その言葉が何度も何度も頭の中で繰り返されている。あのときの私は彼と付き
合ってから一度も裏切ってはいなかった。だから余計に言葉に表せない思いが混みあ
げてきた。

 私は自分自身を我に返した。あまり風呂に入っていかないと怪しまれるし、やっぱり
せっかくの旅行は壊したくなかった。涙を拭いて大浴場に入っていった。そして見ら
れないようにすぐさまお風呂の中に入って、顔にお湯をジャバってかけてごまかして
そして笑った。今から考えるとドラマで見ていたようなことだなと思う。それからも
気を取り直して一生懸命明るくして旅行は遂行されていった。いやなことは考えない
ように過ごしていたのだ。もちろん楽しんだけど、私にとってつらい1週間にもなっ
てしまった。彼にはひと言も言わなかった。

 帰ってきてから何事もないように過ごした。でもあの頃の私は異常だったかもしれな
い。それは憎悪に燃えた女のやることだった。それは例のカードを毎日チェックした。とき
に向きを変えて財布に入れておいて、その方向が変わっていたらまた行った証拠だと
か、私が夜仕事から帰ってきたら寝ている彼のパンツにさわり、精液がついていない
か、洗濯機を開けてはパンツの精子の残量を調べたりした。あと、匂いにも敏感にな
ったのもこの頃だった。

 そんなことがしばらく続いた後、私の中での気持ちに整理がついた。私自信気づくの
はいやだけど、やはり最初に言ったようにしょうがないということに・・・それから
も時々は気づいたし、今現在に至るまでも気づいている。そのことについてこの10
年間言及したことは一度もない。気づかないふりをしているのがいいことだってある
ものだ。始めのころはなにかあったときの切り札にしてやろうと考えていたけど、そ
んな思いも忘れていった。もちろん心ではいい気分はしない、でも仕方ないことは必
ずどんな状況でもある。それにあれ以降、私だってそんなきれいなことはしていない。
そう、私だって同罪なのだ。なんとかギリギリのラインで生活を続けていくほうがい
いし、またそうしなければいけないと思った。

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次回は・・・・
長く生活を続けてきた楽しさ、私の心の寂しさ、そして今回書けなかった
冷めた感情や不安も書けたらいいなと思っているのです。。。
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