◆◇◆ Kuribin ◆◇◆


     カミングアウト〜ゲイ履歴書〜part6 ―彼氏との出会い編―




 あの頃は忙しさに溺れていた。朝まで仕事をしてその後いろんなお店にお客さん
とのアフターにつきあったり、プライベートで飲みに行ったりしていたものだ。そ
して適度に男遊びもしていた。仕事が忙しければ忙しいほどそうなっていた気がす
る。

 当時『伝言ダイアル』というものが流行していた。前にエッセイでも書いたけれ
ど、それによって懲りたりもしていた。なんたって顔は見えないのだ。それは今の
ネットの関係にもつながるかもしれないけど、当時のほうがそのギャップたるもの
は激しかった気がする。

 様々なブサイク、歳をごまかすのはもちろんのこと顔までとんでもない偽りを述
べていた。「俺、吉田栄作に似てるって結構言われるかな」・・・
実際会ってみてびっくり仰天、その男は吉田栄作には似ても似つかない顔をしてい
た。“きつね目にした出川哲郎”だった。

 はぁ〜???ちょっと待って!どこのどなたがあなたのことを栄ちゃんと呼ぶの?
夢でも見たか妄想癖でも・・・??と思った。同時に実家の近くにあった啓成会病
院という精神科を紹介してあげようと考えたくらいだ。私は腹が立った。実際に私
に会って申し訳なく思わないのか、とね。

 しばらく話をしているとどんどん接近してきた。さらにちょっと待って!ひとつ
よろしくて!もしかしてそのうそっぱちの顔とそれでもへっちゃらでいられる根性
で、このかわいい私の麗しき体に指を触れ、なにかを施そうとしてるんではないで
しょうね?当時の私は本気でそう思った(笑)

 さらに恐ろしいめにも遭った。それも伝言ダイアルで知り合ったのだが、その人
は『ジャッキーチェン』に似てるって言われるといっていた。そんなにイイ男じゃ
ないけど、セクシーかもって思ってあったら確かにかけ離れてはいなかった。小さ
くしたジャッキーといったあたりだ。
その人の家に行った。するとその男は中学校の先生であることが判明した。生徒を
時々家に呼び、団欒したり写真を撮ったりしているという。

結構それだけでも怖い。17歳以下の子が好きなのだというのだ。私の顔を自分のひ
ざの上に寝かせて、丁寧に撫でてくる。髪、頬、口、だんだん気持ち悪くなってき
た。「かわいい・・・この目、とってもキュートだよ。あと、口もずっとさわって
いたい・・・」さらに、しばらくして決定的に私を恐怖の底へ落とす言葉が彼の口
から出てきた。

 「首から上ちょんぎって、ホルマリン漬けにしときたいよ・・・」 一気に青ざ
めた。そのときの顔、冗談とも本気ともつかないような笑みを浮かべた顔で、おだ
やかにそう言ってくるのだ。もう私は殺されるかと思った。だってよくまじめな仕
事している人のほうが、危ないことをしたりするもんだ。パニックに陥ってて、そ
の瞬間は「ジャッキーに殺されるんだから、カンフーでころされたほうがいいな・
・・」なんてばかなことを恐怖のふちで考えていた。結局なんともなかったけど・・・

そんなこんながしょっちゅうあって、素敵な人に出会えたりさっきのようなブサイ
ク&クレイジーマンに会ったりで、惰性で身を任せたりごまかして逃げ帰ったりと
、そういうことをくりかえしていた。

 でもそれで幸せが得られることはない。そんなことが続けば続くほど虚しい気持
ちでいっぱいになった。

 そんなとき今の彼に出会った。やはり知り合ったのは伝言ダイアルだった。それ
は今でも忘れはしない、91年の7月7日水曜日だった。そのとき水曜日も休みで
何気なく伝言を聞いていた。そして彼のを聞いて電話をした。確か公衆電話から何
時間も話しをした。それで話していてもらちがあかないということで会うことにな
ったのだ。

 彼のマンションに到着してドアを開いて思った。「わっ、デブ。顔もタイプじゃ
ない」と・・・。そう、彼は太っていたのだ。そんなにデブデブという感じでもな
かったけど、太っていた。またしばらくお話をして、結局シャワーを浴びてエッチ
をしてしまった。

 普通ならここで終わり、あとは帰るだけだった。でも彼とはさらにいろんな話し
をした。もう何人にも話しをしてるけど、つきあったきっかけというのが、下の名
前が同じだった。それがきっかけになったのだ。たったそれだけのことだったけど
、そのときお互いにどう呼び合っていいのか困っていたのが印象深かったのだ。そ
の日は泊まってしまった。初めて会ったというのに・・・

 それから間もなくまた彼のもとへ遊びに行った。その際彼から正式に交際の申し
込みがあった。しかし、そのとき私は即答はしなかった。というか断りに近いこと
を言ったと思う。自信がなかったのだ。まだしょうちゃんとのことも引きずってい
る自分というのもいるし、してきた仕事のこともあるし、どうせすぐ破れるだろう
という想いがあったからだ。

 それでも穏やかな彼は、私の癒しになっており仕事帰り、休みの日にしょっちゅ
う遊びに行っていたものだ。夜中仕事が終わって行っても彼は嫌な顔ひとつしない
で迎えてくれた。自分は朝から仕事があるというのに・・・。そんな中、彼はさら
に交際について話してきた。私はいつくかの条件を出した。

 今まで恋に破れたことの経験を生かして、教訓を含めて彼に言ったのだ。「私は
こうこうこういうのが好きでこうされるのが嫌い。そしてこれに対する自分の考え
はこうだ。そして前の彼にこうされたから別れた。仕事はこういうことをしてるか
ら、当然時間の配分は難しい・・・こういうときはこうして欲しい、また同じこと
は繰り返したくない」などなど、数々の想いと希望を述べた。これを1年後も守れ
るなら付き合ってもいいと思うと・・・

 彼はそれでいいと言ってくれた。私は「こんなわがまま子なんだよ。いいの?」
すると彼は「いいよ。そんなに若いのに自分の考えを明確に持ってるっていいこと
じゃない。自分のものさしを持ってない子が多い中でそういうのってとってもいい
ことだと思うよ」 その時点で私は付き合うことに対してOKの返事をした。そう
か、こういう風に見てくれる彼だったらうまくいくかもしれないと確信したのだ。

 私は当時、たかびーでわがままな子だったけどその点だけは冷静に見つめていた
つもりだ。

 彼はなるべく私に合わせてくれた。時間も予定も。その時間の許す中でいろんな
ところにも行った。もう付き合って1ヶ月も経たないうちに私は彼のマンションに
住みついていた。少しずつ私の荷物が増えていって2ヶ月で全てそこにものは持っ
ていった。まだそのときは本当の幸せというものはわからなかったけど、仕事から
帰ってきて迎えてくれる人がいる喜びというのは非常に嬉しいことだった。

 私の女友達とその彼氏と私たちとダブルデートして曹sったのも
楽しかった。今まで遊んでもらっていたのが、同等の立場になって遊べるというのが。

 でも住みはじめて時が経つと、もちろん幸せなことだけでは片付けられないこと
も出てくる。すれ違い、冷めた感情、重荷・・・
次回はそんな生活編をお届けしましょう。