♂♀ カミングアウト〜ゲイ履歴書〜part2 ♂♀



 東京で出会った彼と私は短い間隔で会うようになった。うちへ突然やってくる。
でも私は彼のことを何も知らなかった。
 住んでいる場所も彼の身近な出来事も普段何をしているのかさえも・・・。

 彼は私に新聞社で勤めている、そして28歳だと言っていた。ある日その彼は、
買い物に行ってくると言って出かけた。すると、かばんから何かが出ている。私は
しまってあげようと思い、それを手にとった。

 するとそれは新聞の勧誘の人が契約のときにくれる、新聞購読の契約書だった。
 私は唖然とした。彼は新聞社に勤めてるんじゃなかった、新聞の勧誘をしている
んだった。
 「仕事で香港とか台湾とかシンガポールにも行くんだ」さらに、私が台湾に旅行
に行くときも「出張でわたると一緒に行ければいいのに」とも言っていた。
 うそだったのか・・・。私に言っていたことは全てうそだったのか・・・。
そういえば、年も冷静に考えてみたら20代には見えない。肌の質感、歌う歌、言
うことすべて・・・。

 帰ってきた彼に私はなにも言わなかった。しかし私は悲しかった。私は彼に対し
て、何を求めていると思ったのだろうか?
 仕事なんてどうでもいい。どんな仕事をしていても、どこに住んでようとも。そ
の人が誇りを持ってやっていることなら輝いていると思うからだ。

 “恋は偽り”ということもあるが、それは相手のことをただ1度きり、一夜限り
の相手ととらえたときに用いることだと思っている。
 私はだんだんと冷めていった。私はそういう存在だったのか。私は私の心を埋め
てくれた彼を好きになったのに・・・。

 彼はそれからも突然私の部屋の扉を叩いた。でも私はあるときからいても出なく
なった。のぞき穴から彼が見えたらそーっと自分の部屋に戻っていった。所詮合わ
せるのは肌だということをわかっていたからだ。
2ヶ月くらいそのようなことが続いた後、私はある事情により札幌に戻ることにな
った。

 楽しい思い出をくれた彼に対しては感謝している。

 札幌に戻ってしばらくして私は初めてハッテン場(ゲイが出会いを求めて集う場
所)に行った。何度か行って、そのときある男性に出会った。お決まりのようにホ
テルに行った。
 そのときセックス正直言っては合わなかった。でもその彼(そのとき“しょうちゃ
ん”と呼んでいたのでそう呼ばせていただく)のなんとも言えないほのぼのとした
雰囲気と暖かさに好感を覚えた。

 付き合うことになったが、私は札幌、しょうちゃんは札幌から1時間半くらい離れ
たルスツという町に住んでいた。その遊園地のバイキングを操作している人だった。
 しょうちゃんとは休みも合わなく、距離も離れているということで苦労もあった。

 東京の人から見たら、1時間半というのは通勤圏内でもあり、日常一般の人が許容
範囲内で過ごしている距離だろう。
 しかし、北海道というのはみんなが札幌に仕事に来ているわけではなく、各々の町
で各々の仕事をしているというのが主だと思う。

 それに札幌からルスツといえば、札幌の奥座敷「定山渓温泉」を通り、峠をひとつ
越えていかなければならないところにあるのだ。車のほか、交通機関は札幌駅バス
ターミナルから出ているバスのみ・・・・・

 しょうちゃんは休みの前の日になると、私のもとへ会いに来てくれた。6時に私の
仕事が終わるのを待って、車で店の近くに来てくれたのだ。
 すごくうれしかった。いつもどこかで食事をして軽くドライブをした後、ホテルに
行っていた。毎回違うホテルを探して泊まるのはとても楽しかった。その前にコン
ビニでお菓子やジュースを買ってホテルに入った。

 私たちは毎回、会えない時間が長ければ長かっただけ強く愛し合った。私はその
とき初めて『求め合う』ということを知った気がする。
 でも同時に悲しみや嫉妬というのも知らされた。しょうちゃんは時々泣いていた。

 付き合っていれば“先”の話をすることがある。そのとき私は何気なく「いつまで
つきあうんだろうねー」などと言うことがあった。

 すると彼は、最近母親が小さな赤ちゃんの人形を抱きしめて孫のようにしている素
振りをするのだという。だからしょうちゃんは、
「結婚する。それで孫を作っておふくろを喜ばせるんだ」と言っていた。そして
「でももし結婚してもわたるとは付き合っていきたい」とも言った。

 私はそれに対して「そんなのいやだ。だって奥さんかわいそうだし、何よりそんな
の失礼だよ。私に対して」と彼に言っていた。しょうちゃんはそんなことがあるたび
に彼は涙を流していた。
そのときの私にはわからなかったが、しょうちゃんには年やそのときの周りの状況な
どからいろんな思いがあったのだろうと思う。

 なにはどうあれ、私はしょうちゃんのことが日増しに好きになっていった。会えなく
て寂しいときも我慢した。ほぼ毎日電話で話していた。
しかし、どうしても会いたくなったときがあった。夏休みの時期で遊園地もかき入れ
どき、彼はどうしても休みを取れなくてしばらく会えなかったのだ。

 どうしても会いたくて会いたくて、ある日私は仕事が終わってから急いで札幌駅のバ
スターミナルに走った。そして乗車券を買いバスに飛び乗った。バスだから途中止ま
りながら、約2時間後ルスツリゾート(ルスツ高原)に到着した。

 バス停に降り立ち周りを見渡しても何もない。私は急いで公衆電話を探した。彼と連
絡をとる術(すべ)はこの電話1つしかない。部屋に電話をかけたが一向に出ない。
もうとっくに遊園地は終わっており、時間はすでに7時をまわっていた。私は急に不
安になった。どうしよう、いなかったら・・・

 しばらく近くの商店の軒先でひざを抱えて座っていた。30分くらいそうしていただ
ろうか。とにかくもう一度電話をかけてみようと思い、残りわずか6度数しかなかっ
たテレカでかけてみた。

 すると、しばらくすると電話の向こうからしょうちゃんの声が聞こえた。私は涙が出
そうだった。それよりなにより、近くに私がいることを知った彼はかなり驚いていた。

「とにかくホテルのロビーに来い」ということでそこに向かった。彼は駐車場をはさ
んで隣接している寮からすぐ飛んできた。話しを聞くと仕事が終わってお風呂に入っ
ていたそうだ。話していたら彼の仕事仲間が来た。彼はとっさに私のことをその仲間
らにこう紹介した。
「これ、俺の甥なんだ。急に札幌から出てきて・・・」と。
ま、仕方ないか、私がいきなり押しかけていったんだし。

 私は彼の寮に初めて行った。寮の管理人のおばさんにも“甥”ということで紹介し、
しょうちゃんの部屋に連れてってもらった。
 部屋に戻るなり彼は私を叱った。「なんで急に来るんだ。来るんならちゃんと連絡
をよこせよ。もし俺がいなかったらどうしてたんだ!?もう札幌に戻れるバスはな
いし、金だってないんだろ?」

 ほんとだ。どうするつもりだったんだろう・・・そんなことも考えず気がついたら
来てしまっていた。16歳の私にはそんなこと考える余裕もなかった。私はこう彼
に言った。
 「ごめん。でも我慢できなくてバスに乗っちゃったんだ。ここに来たら絶対しょう
ちゃんに会えると思って・・・」

 彼は喜んで私を抱きしめてくれた。きつく・・・

 そして仕事場や寮の中を案内してくれた。一緒にお風呂にも入った。その夜、彼は
私を抱くときに「静かにな。ここは壁が薄いから音つつぬけになるんだ」と言った
が、いつも以上につよく私のことを抱いた。そんな中でしょうちゃんの指示を守る
のは非常に難しいことだった。(笑)

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さらにパート3へ・・・
とにかくパートいくつになっても書いていくつもりです。
なぜならこれは、私自信を振り返って見つめる大切なことだから。
楽しいことも屈辱的なことも・・・
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