人間ウォッチング Part1





 最近、人間に興味を失ってきた。何か良い方法はないだろうかと考えた。その結果、人間ウォッチングを行うことを決めた。私は時々、人間ウォッチングをしてリフレッシュして世の中の不思議なことや、おもしろいことを取り込み明日の活力とする。でも、本当に一人一人知らない人々を見ていると、面白い発見が数多くあるものだ。

 私がいつも行う方法は、まず落ち着いて観察できる場所を確保し、次に喫煙体勢に入る。そしてなるべく怪しまれない様に地味なムードを作り出し、ようやくウォッチングの時が始まる。

 とりあえず、わたしは駅の改札の前で行うことを決めた。最初は若い男性。年齢は22〜3であろうか。まず分析してみた。彼は、物事にあまり終着のない性格なのだろう。その理由の一つは、グレーと黄土色のネルシャツの中にヤニ色に染まったヨレヨレのTシャツ、ズボンは深緑、靴下は黄色で靴は“PaloClub”と書かれた、堂々とはくにはあまりにも勇気のいるまがい物の靴。そして、ポッケからはみ出たMr.Junkoのカラフルなハンカチ、多分これだけは誰かからもらったものなのだろう。その色彩センスから推測するに、自分についての執着は皆無に等しいだろう。

 次は交友関係やその他の人付き合いだ。友人は一人あれば良いほうではないかと思う。それは52度下うつむき加減の目線、顔の筋肉の未発達さ、背中は曲がり体をすぼめて歩行する。これは社交性に極めて乏しい証拠である。

 その時間、約30秒くらいだ。少し彼に興味が湧いてきたので、もう少し観察を続けることにした。後をついて行くと、駅を出た目の前にカメラ屋がある。ああ、あそこに行くのだろうと考えていたら案の定カメラ屋に入っていった。

 このようなタイプは、大抵カメラかコンピューターが好きなのである。そーっと、何気ないムードで見ていた。すると、物欲しそうにガラスの中に入った数々のカメラを食い入るように見つめていた。さすがにこうゆうタイプのこういう場面を目の当たりにすると結構恐ろしいものだ。自分のバランスをしっかり保ちつつ、尚も彼を観察していると、今度は店員に何か尋ねているようだ。聞こえずらかったので、仕方なく中のカセット売り場まで近づくことにした。すると、カメラの事細かな仕様について聞いていた。一般の人には絶対に分からないであろう、その聞き方がまた恐ろしいのだ。このようなタイプは必ずそうなのだが、偉そうに知ったかぶりで店員が腹を立てそうな物言いで、質問というよりは自分の知識を他人にひけらかすという感がある。このタイプは、秋葉原の電気街にあふれんばかりに存在している。

 結局、彼は話すだけ話して出て行き次に20メートルはなれた本屋に行った。すると彼は私の入れない領域に足を踏み入れた。コンピューター関連とエッチなコーナーだ。私は、案の定このパターンになったと自分の今までの分析結果に誇りを持った。彼はコンピューターの本を読みつつ、エッチな方に目を投げかけた。そして、間髪いれずに本を持ち広げた。そこから先は私も話せそうに無いので勘弁して欲しい。気分が悪くなった私はそこで調査を続行するのを断念した。本屋から出た彼を見送ることさえ私にはその勇気も気力も残ってはいなかった。

 ということで、今回のウォッチングは終わった。人間ウォッチングというわりには、なんともあっさりとした結末だと思った。次回はもう少し自分を鍛えなおして出直したい・・・

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