ねらわれた学園ごっこ




ねらわれた学園』、これも私が興奮した連続テレビドラマのひとつだった。何年生の頃だかは忘れてしまったが、確か土曜日の7時半くらいに放送していたはずだ。

すでにドラマの主人公の名前や細かいことも忘れてしまった。しかし、はっきり憶えているのは原田知世が主人公で伊藤かずえがその敵というかライバルだ。

原田知世は学園を守るために超能力を使い、伊藤かずえらと戦うといったよくありふれたストーリーだったと思う。知世は超能力を使うときに目が赤く光り、伊藤かずえは緑色になった。

さあ、あの頃の私、早速学校に行ってそれを試したくなる。私は訓練をつんだ。第1話目からはまってしまったが、7話目くらいまでそれを披露するのを我慢した。なぜなら私の練習不足で完璧なものにならず、恥をかくのを恐れたからだ。

 まず目を赤く光らせなければいけなかったので、画用紙に赤いマジックで塗りつぶし、眼球の大きさに切り抜く。そこからが私の大きな問題だった。どのようにそれを演じてみせるか・・・・・。

 最初はあらかじめまぶたにそれを貼り付け、超能力を使う際目を閉じるという方法をとった。しかしこの方法ではあまりリアリティーがえられず却下した。

 そこで採用したものは、丸く切った紙の裏にセロテープをつけ、じかに眼球に貼り付けようというものだった。私は練習に練習を重ね、ようやく指で眼球をさわれるようになった。

 次はその超能力アイテムを貼り付けなければならない。紙なのでかなり痛かった。目に突き刺さる痛みにも耐えた。かなりの危険を伴うがそれもやむを得ない。何かを本格的に演じきるには多少のリスクはつきものだ。

 ようやく訓練も終わって早速学校でその話しを持ちかけてみた。すると、ねらわれた学園はクラスでも流行っていたので、何人かが興味を示してきた。 ここで困った問題が浮き彫りになった。ハナから私は原田知世役を決めていたのだが、他に2人それになりたいと申し出る者が現れた。

 心の中で、「冗談じゃない、私は伊藤かずえの緑の目になるために修行を積んできたんじゃない。毎日死ぬ思いで練習してきたんだ」とそれに断固講義する姿勢でいた。 (それでも、伊藤かずえの役を意識していたなんて、私は図々しい子だ。)ここで私の今までの特訓の成果を見てもらい、どれだけ私が知世の役に対する思い入れがあるのかを見てもらおうと思った。

 私はすかさず製作した超能力アイテム“眼球シール”を取り出し、教室にいた民に見せることにした。目に貼り付けなければならないため、後ろを向いてその作業をするのに多少の時間がかかり、オリジナルにはない工程があるがそれも完璧にするため仕方がない。どんなに練習しても10秒弱はかかってしまう。

 ようやく超能力モードに変身し、友達に見せた。

 「キラーーン!♪」という効果音も自分の口で言い、原田知世の超能力前のきめセリフ、「許さない!!」を迫真の演技でクラス中に響き渡るように言った。

 その瞬間、友達は言った。「あ、、いいよ。きよ・・・原田知世で・・・。私学園の生徒になるから・・・」。ほかに知世になりたがってたやつも「私先生になろうかなー」などと言い始めた。

 明らかにひいていた。クラス中が・・・・・

 皆、おのれの眼球にコンタクトレンズのように紙をはめ込んだ私を見てひいた。その空気は私も感じ取ってはいたが、勝利を手にしたことで全てが問題ないと考えていた。

 「さあ、じゃ始めよう!」私が言うと、 「う、うん、明日からね・・・」そう言われた。 まーいいか。とにかく主役の座はもらったわけだし。

 次の日、昼休みに入り“眼球シール”を手にして友達のもとへ近寄っていくと、「みんなでドッジボールするから」とあっさり言われ、私の言葉には誰一人耳を貸してくれなかった。

 私は夢見ていた。ねらわれた学園だからちょうどクラスだし、いい感じになるともくろんでいたからだ。現にみんなあれほど乗り気だったじゃない! 誰一人私に賛同する者はいなかった。そして悲しくも皆校庭へと消えて行った。

 それからしばらく私は一人で“ねらわれた学園ごっこ”をしていたのだ。ごっこと書いたが、まるで歓楽街の大道芸人のような扱いを受けながら一人で・・・・・

 校庭に行かなかった暗い子達の前で・・・。