悪魔の子

 

 「キャ〜〜〜〜!!!!!」

私の悪行三昧を話せば、この世の終わりのような叫び声が聞こえてきそうだ。

 それは小学生の頃のこと。恐ろしくもそこには一人の悪魔が存在していた。その悪魔とはもちろん私のことだ。私は自分の手を汚さず、物事を遂行するタイプだったので、昔自分のことを『黒い影の子』と呼んでいた。例えば、エッセイの中で『ペットセメタリー王国』というものがあるが、その中で数々のかわいいペットたちを死に追いやったいきさつがある。それらの墓の掘削作業、埋葬作業を一手に引き受けていたのは実は“くーやん”だった。

 エッセイでは、私はくーやんの言うことを何でも聞いていた奴隷のように書かれているが、金が絡むとそれはまた別なのだ。利害関係が生んだもうひとつの関係だった。ひとつは、毎朝くーやんが6時半になったら私の部屋に来て、部屋の掃除、私の身支度の手伝いをする。それが終わると私はくーやんに500円の報酬を払うといった雇用関係だった。私は昔から朝がめっぽう弱い子供だったので、毎朝来て起こしてもらうだけでも随分助かった。一時期はくーやんの他にもう一人、計二人を雇用していた時期もあったのだ。

 その延長線上で、私に何か困ることがあれば駆けつけるというのが当たり前になっていた。だからペットの死が確認されたら、歩いて20秒もかからないところにあるくーやん家だが、まず電話で一報を入れる。するとくーやんは我が家へ5分以内に出動するのだ。死んだ鳥をかごから出し、箱にティッシュを詰めお墓へ埋める。金魚も手づかみで取り、埋めて水槽をきれいにする。ハムスターのときはもっとひどかった。すでにのされたモモンガ状態になっていて損傷も激しく、それだけを取り出せるような状況ではなく、ショックも激しかったのでカゴごと埋めることにした。

その際もくーやんともう一人の使用人が、庭に穴を掘った。カゴごとで後から出てきては困るので、60cm四方、深さ役1mの穴を掘ってもらった。私はといえば、その傍らで腕を組み指示を与え見ているだけだった。小学生でありながら、どこをどう間違えて、何を見て勘違いしてたの?というプチお姫様だった。

さらに冒頭で叫び声をあげたような出来事をご紹介しよう。ズバリ私はいろんな人に変なものを食べさせていた。まずはいとこの達也。彼は第一の犠牲者で最大の犠牲者だ。達也はおだてれば何でも食べるということがわかっていたので、そういうことになってしまっていたのだろう。庭にあったものほとんど食べたのではないかと思われる。

パンジーやカラフルなお花といった目で楽しむもの、菊の葉っぱ、ハコベ、トイレの脇にあったシソ、その他雑草類だ。「達也って何でも食べれるんだよね〜?」って言えば「俺なんでも食べれるよ!」と言い、「じゃぁこれ食べれる?」といえば自分で雑草をちぎって口にいれ「うまいな〜これ!」と誇らしげに私に言う。「すご〜い!何でも食べられるなんてさ。あれも食べられるの?おいしいの?」と言えば、いろんなお花や葉っぱをちぎっては口に運び「あ〜うめぇ!」と草の汁色や黄色い花粉色になった口を大きく見せびらかしながら喜んで食べている。ああ、今から考えれば本当の馬鹿なのね。

 

くーやんもその被害者の一人なのだ。食いしん坊のくーやんにうってつけのいたずらを考えた。いつも私におやつをせびる彼女に対して思った。〜そんなにうちでおやつが食べたければ食べさせてあげるわ〜 それは庭にあったタンポポを使った料理だった。もう綿毛になったタンポポと茎をみじん切りにして、ホットケーキに混ぜて焼いたもの。くーやん用のタンポポケーキと何も入ってない私用のを別々に焼き、「これ最近アメリカで流行っている“フラワーパンケーキ”って言うんだって」ととっさに考えたネーミングで付加価値を増して差し出した。するとくーやんは嬉しそうにそれを食べ、「へぇ〜おいしいね〜これ。アメリカのホームドラマで食べてるのと一緒かな〜」と勝手にアメリカンになっていた。私も「そうそう、アーノルド坊やもこの間食べていたよ」と気分を盛り上げるのに付き合ってあげた。

そして最後は今回の最悪の被害者、私の妹だ。これはいまだに本人にも言ってない。私たちは当時よく喧嘩をしていたものだ。勝手に私の部屋に入って散らかしたと言っては髪を引っ張り、市中引き回しの刑にしていた。そんな中、私は庭で作業しているときにふと目に留まったものがあった。私は庭の一部をブロックで仕切って野菜などを栽培していたのだ。そのブロックの中にアシナガグモがたくさんいるのを発見した。残酷な子供の私はその足をはさみで切ったりして遊んでいた。そして何匹かの足を切って全部切り終わったとき、あることに気づいた。これって小さなチョコレートみたい・・・

そんな一瞬のイマジネーションが私を悪の道へと誘った。私はその足なしアシナガグモをピンセットでつまんで袋に入れ部屋に持ち帰った。それをマーブルチョコとか麦チョコに混ぜて、ちょうどけんかをしていたが部屋を訪れた妹に差し出した。「はい、マーブルチョコあげる」と言って手を出させ、チョコの箱から出てきた数粒のチョコとアシナガグモが、妹の手のひらに躍り出た。「さぁ妹よ、食べるのよ!私に悪事を働くとこういうことになると思い知りなさい」と悪魔に売り渡した心の声と何食わぬ眼差しで妹を見ていた。彼女は小学校の低学年だった、確か一年生か二年生くらいだったと思う。だから何の疑いもなくスパイダーチョコを口にした。

「あっ、あんた食べちゃったのね・・・」と悪を悔いる心が現れたが、もう時は遅かった。妹は別に感想は何も言ってなかった。まあ当然だろう、普段口にしているものを食べただけなんだから。

ほら、冒頭の叫び声の意味がわかったであろう。私の悪行三昧の一部が今ここに明らかになった。小学生でその類の悪事から足は洗った。今考えてみても虫唾が走る。私はその悪事を悔いているが、神がそれを許さないならどうぞ私を島流しにでもしておくれ。

 「おっとつぁん、ごめんよ。おきよは島流しにあっても百叩きにあってもおっとつぁんのことは決して忘れないよ・・・」